はるか遠い自然について
今年の夏、
鳥取での滞在中に出逢った、
星野道夫さんの写真集。
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私は彼の書籍を読んで
アラスカへの思いを募らせていた。
アメリカに戻ってすぐ、
主人に話を持ちかけた。
「来年に予約した
ディズニークルーズ、キャンセルして
アラスカに行かない?」
アメリカの大自然に触れる中で
次第に興味が薄れていった
ディズニークルーズ。
(もちろん、行けば楽しいのは確実だけど)
同じお金を出すなら、
今の私たちには、大自然の中に
身を置くことのほうが
必要な気がしたのだ。
主人は、
「ともこが行きたいなら、いいよ」
と二つ返事だった。
子供たちにも了解を得た。
(あまりディズニーについて
馴染みが薄い我が子たちは
雪遊びを選んでくれた)
そして、すぐに予約した。
時期は12月中旬。
色んな人に聞かれた。
「なぜ寒い時期に、
わざわざ寒いところへ行くのか」と。
主人の仕事の休みが取れるのが
年末しかなかったからというのが
正直なところのアンサーだ。
目的はオーロラだし、
10月11月くらいの
まだあまり寒くないけど
オーロラも見れる時期がベスト。
-30℃なんて
凍てつく未知なる世界は
私だって少し怯んだ。
でも、内から湧き出る何かが
「それでも行く」と決めていたのだ。
どんな服を着て行けばいいのか、
最後までよく分からず、
友人やリサイクルショップから
かき集めた防寒具を持って
出発した。
行きの飛行機で早速、
私は日本で買ってきていた
星野道夫さんの書籍を読み始めた。
「魔法のことば」
何かの啓発本のような題名だが、
中身は彼が生前、日本各地で行った
講演記録を収めたもの。
各講演会での話の内容は、
非常に被る。
だから同じ話が何度も出てくる。
なのに。
なのに?
いや、
だからこそ、
染み込んでくる。
彼が心底思ってる思いや、
大切な思い出。
アラスカへの思い。
そして、それに対して
私が敏感に反応した箇所も
分かってくる。
あ、また同じ話だ、と
軽く飛ばすところと、
何度でも味わってしまうところ。
行きの飛行機で、
私はこの本を読みながら、
これから行くアラスカの大地に
期待で胸がいっぱいになっていた。
サンディエゴ→シアトル
シアトル→フェアバンクス(アラスカ)
約10時間の移動。
不思議なことに、
寒さが近づくにつれて、
本への集中力は増し、
星野道夫さんの言葉は
力を増した。
自然には二つある。
一つは、自分にとって身近な自然。
道端の花だったり、近くの川や海、山。
庭の草木や、畑の野菜。
身近で日常の中にある自然。
もう一つは、遠い自然。
一生行かないかもしれない、
遥か遠くの自然。
アラスカの原野に広がるツンドラ。
太平洋に浮かぶツバル島。
地平線かなたまで広がるサバンナ。
北極熊の親子が氷河を歩く姿。
光も及ばない深海の世界。
私たちは一生行かないし、
見られないかもしれない。
それらが静かに朽ち果てようとも、
私たちの生活に大きな支障は
ないのかもしれない。
でも、自分が
まだ見ぬ、大いなる世界が
この世に存在している、
そのことが私たちの気持ちを
確かに豊かなものにしているのだと、
星野さんは語っていた。
想像してみてほしい。
野生のオオカミが
この世界から完全にいなくなったアラスカ、
ヌーがもはや大移動しないサバンナ、
ザトウクジラが海の上を
ジャンプしない太平洋、
人類未到の地が
一切なくなってしまった世界。
全てが解明されてしまった世界。
一瞬でも
寂しさを感じたのなら、
つまらなさを感じたのなら、
少なくとも
その分だけ、
あなたを豊かにしていたという証拠だ。
自分が一生見ることのない、
北の果ての大地。
自分が一生見ることのない、
深海の生物。
それらのものも等しく、
私たちの生活の一部となっていることを
強く感じた。
寒さがその思いを確たるものにした。
寒さ。
寒さは、北の景色は、
うちへのベクトルが強くなり、
自分とのつながりが強くなる気がする。
温暖さと比べた時に、
何が違うか考えたのだが。。。
私は普段、サンディエゴにいて、
冬も暖かく、夏はすっかり
ビーチリゾートだ。
暖かさは、人を解放させる。
身体に安心をもたらし、
自分が広がるような気持ちになる。
意識は外へ。
余計なものがすっぽり抜け落ち、
ありのままの自分になってような気持ちになる。
つまり「出す」力が強くなる。
その一方で、
寒さが厳しくなってくると、
本が進むし、入ってくる。
身体は少し緊張し、意識は内へ。
自己対話が進み、
自分が考えが明確になり、
自分の精度が明らかに
上がったような気がした。
こちらは「入る」力。
特にアラスカのような徹底した寒さは、
その威力がすごい強かった。
こんな極北で長年過ごしたからこそ、
星野さんの言葉たちは
すごい深みがあるのだろうと
静かに思った。
彼は写真家であるにもかかわらず、
私にとっては
正直、村上春樹と同様に
しびれる作家だ。
帰りの飛行機で読んだ
「長い旅の途上」という彼の本も、
本当に素晴らしく、
あっという間に読み終えた。
十代の青年たちに、
ぜひ読んでほしい星野道夫さんの本たち。
もちろん、
いくつになっても
響くものがある。
少なくとも
響き過ぎて、
一人のアラフォー女を
アラスカまで導いてしまったのは
間違いない。
どうなるかと思ったアラスカ旅行。
私たち家族は、
とにかく、雪深いアラスカに来て
心からしみじみと良かったと思っている。
こんなおとぎ話のような
美しい雪深い世界が実在していることを
この目でしかと見れたことは、
知れたことは、
ふとした瞬間思い出し、
私たちの心を間違いなく
豊かにしてくれるであろう。
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